高齢者医療制度円滑運営事業費補助金
厚生労働省「予防・健康づくりインセンティブ推進事業」 データヘルス計画推進シンポジウム
-政府・骨太方針に基づく社会保障KPIとデータヘルス計画の運営を支援するポータルサイト-
開催報告

【日時】
2016年3月22日(火)14:30-16:30
【会場】
東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター地下2階 伊藤謝恩ホール
【主催】
東京大学政策ビジョン研究センター
【後援】
健康保険組合連合会、全国健康保険協会
【備考】
対象:
健康保険組合、共済組合、全国健康保険協会、保険者と協働する事業主(人事総務担当)、都道府県国保連合会
参加費:無料

プログラム

開会挨拶
坂田 一郎
(東京大学政策ビジョン研究センター センター長)
特別講演1「骨太方針に基づく工程表および社会保障KPI」
野村 裕
(内閣府政策統括官(経済社会システム担当)付参事官(総括担当))
大来 志郎
(財務省主計局厚生労働係総括、第一係担当 主査)
特別講演2「医療保険者によるデータヘルス計画の推進」
安藤 公一
(厚生労働省保険局医療介護連携政策課医療費適正化対策推進室長)
プロジェクト報告
「保険者を支援するポータルサイト~社会保障KPIを実現する視点から」
古井 祐司
(厚生労働省「予防・健康づくりインセンティブ推進事業」実施責任者、 東京大学政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット 特任助教)
パネルディスカッション
「ポータルサイトを用いたデータヘルス計画の評価と見直し」
パネリスト
田浦 聖子
(SGホールディングスグループ健康保険組合 保健事業課課長)
今井 紀博
(厚生労働省大臣官房会計課福利厚生室共済班共済班長)
コーディネーター
古井 祐司
(厚生労働省「予防・健康づくりインセンティブ推進事業」実施責任者)

講演概要

東京大学では、厚生労働省の高齢者医療制度円滑運営事業費補助金「予防・健康づくりインセンティブ推進事業」を通じて、医療保険者の「データヘルス計画」の運営を支援し、予防・健康づくり施策の検証を進めるための仕組みを検討している。

政策ビジョン研究センター 坂田一郎センター長

今回のシンポジウムでは、「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太方針)」に基づく構造改革や社会保障KPI等、データヘルス計画に関する政策導入の背景と主旨について関係省庁から紹介いただくとともに、東京大学で行っているプロジェクト報告、および現場の医療保険者からデータヘルス計画運営の実務やポイント等についてパネルディスカッション形式で発表いただいた。

当日は、健康保険組合など保険者を中心に、自治体、企業総務・人事担当者等、約240名が参加した。

特別講演1「骨太方針に基づく工程表および社会保障KPI」

内閣府 野村裕氏

内閣府の野村氏は「国・地方を通じた経済・財政再生プランについて」と題し、改革工程表のポイント、KPI設定の考え方、社会保障分野の改革工程表など、改革工程表・KPIの全体像について説明を行った。

(以下要旨)

改革工程表は2020年度までに国と地方の財政収支を赤字から脱却するのが目標であり、まずは2018年度にプライマリーバランス赤字対GDP比をマイナス1%程度に収めることを目標とし、5年後の実現を目指している。計画は、硬直にならず柔軟性を持たせることを方針とし、各分野の改革項目の積み上げ、ボトムアップにより構成される。また、KPI指標を設定し、実態データを徹底的に「見える化」し、エビデンスに基づいた分析をしながら計画の進捗管理を行うことを特徴としている。
データの「見える化」を行うことによって、行政に対する需要や要求構造を根本的に変えることを狙う。今後、半年程度でデータベースを整備し全国平均や近隣自治体との比較が出来る環境を整え、各自治体で経済・財政再生に資する改革を進める端緒となることが期待される。
また、データインフラの整備にとどまらず、先行的な取り組みを行っている自治体の事例を先進・優良事例として収集するプロジェクトも実施する。具体的な事例として、静岡県独自で設定した指標である「お達者度」(65歳の平均自立期間)、群馬県における市町村国保事業と介護保険事業のベンチマーク設定の取り組みが紹介された。
内閣府では、このような事例収集やデータの「見える化」等、自治体関係者が活用しやすいインフラ整備により改革の裾野を広げ、改革推進に向けて関係省庁と協力しながら取り組みを進めていく方針だ。

財務省 大来志郎氏

財務省の大来氏は、「我が国の社会保障制度を巡る状況と改革の取組み」と題し、医療保険財政について、なぜ改革工程表における取組みが必要なのか財政的な観点を中心とした説明がなされた。

(以下要旨)

国の予算における社会保障の支出は、バブル期と比較すると、他の一般歳出がほぼ横ばいであるのに対し、現在では3倍に膨張している。今後も、GDPの伸びを上回って医療や介護の費用が伸びると推計されている。人口の高齢化は社会保障給付費に大きな影響を与えており、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年に向けて、現状の給付水準のままでよいのか議論のあるところである。OECD諸国における社会保障支出と国民負担率の関係をプロットしたグラフを提示し、改革を行わず現行制度を維持した場合、日本は社会保障支出がバランスを欠いて膨張していく状況にある。
このような背景から経済・財政再生計画において社会保障改革は特に取り出して記載されており、効率化や予防等、制度改革に取り組むこととなっている。小泉内閣時代の社会保障費コントロールは単年度での予算をみて抑制していたが、今回の計画では、社会保障費の伸びをみながら複数年度で管理される。予防等に取り組み、趨勢的な医療費・介護費の伸びが落ち着いたものになればその結果が取り込まれる仕組みであり、保険者が予防に取組み、医療費・介護費の伸びに貢献することが期待される。
また、社会保障関係の改革工程表は大きく7つの項目で構成されており、「見える化」の推進、KPIの設定、インセンティブ改革等が謳われている。
保険者に対しては、インセンティブ措置下での保険者機能の適切な発揮や、被保険者に対する給付と負担のバランスに関する意識啓発、個人に対するインセンティブ付与の仕組みの活用、地域医療構想の実現のため積極的・主体的な協議への参加、適正なレセプト審査や専門性の向上、医療関係者との積極的な対話等も重要な論点である。

特別講演2「医療保険者によるデータヘルス計画の推進」

厚生労働省 安藤公一氏

厚生労働省の安藤氏からはデータヘルス計画の推進に着目した現状と課題について説明があった。

(以下要旨)

データヘルス計画については、昨年9月現在でほぼ9割の保険者が計画策定を完了している。データヘルス計画はPDCAサイクルを回すことを謳っているが、実際の計画をみると、PDCAサイクルが出来ている保険者もあれば加入者の健康課題の把握もこれからといった保険者もあり、今後はデータヘルス計画の精度を高めていくことに注力するという。
平成30年度からの本格稼働に向け、そのためのツールとして、いわゆるポータルサイトを活用した計画の標準化も検討している。
データヘルス計画を推進する上では、ノウハウ・推進方策、専門的人材・マンパワー、事業実施へのインセンティブと、大きく3つの課題がある。
データヘルス計画を進めるためのノウハウ・推進方策がわからないという課題については、一次予防としての生活習慣病対策、重症化予防の二つの取組みを行っている。
一次予防については、健診受診を契機に行動変容や問題の意識化につながるような工夫が必要である。具体的には、付加価値をつけたわかりやすい健康情報の提供(視覚に訴える・数値の意味を伝える・ソリューションを伝える)や、ICTを活用したインセンティブの取組みを考えている。健康無関心層を健康活動にひきこめるよう、インセンティブを付け、取り組むきっかけや継続支援が活用できないか検討中であり、ガイドラインとしてとりまとめ近いうちに保険者に配布する予定である。保険者からの働きかけだけでは限界があり、個人の日常生活動線でも健康づくりの仕掛けを入れる必要があり、学齢期からの健康教育、職場での働き方、退職後の地域でのコミュニティづくり、本人が意識せずとも健康づくりにつながるまちづくり等、大きな視点での取組みも同時に進める必要がある。
重症化予防は、糖尿病性腎症について一部の保険者と医療機関の連携で既に取組みが始まっており医療費的にも効果が期待できる。一番の課題は、医療機関と保険者が良好な関係を作りあげる点であり、先行的な事例として、広島県呉市や埼玉県での事例が提示された。
専門的人材・マンパワー不足の問題については、多くの健保組合において実際の事業を民間事業者への委託で実施している実情を鑑み、今後は質の高い民間事業者の育成に力を入れ、保険者と事業者それぞれのニーズとソリューションをマッチングする取組みを推進する。
実際に事業を実施するためのインセンティブがないという課題については、保険者種別に関わらず共通で取組む課題もあり、保険者共通の評価指標を検討会でまとめている。今後は、その結果をふまえ保険者種別の具体的なインセンティブの仕組みについて検討を進めているところである。
日本健康会議における「健康なまち・職場づくり宣言2020」において、一定のKPI目標を含めた取りまとめが行われている。今後は毎年4月~5月にこの宣言の達成状況を全保険者にアンケート調査で確認し、日本健康会議のポータルサイトも活用しながら実際の進捗状況を「見える化」し、2020年度に向けた一層の保険者の取組みを促していく。

プロジェクト報告

政策ビジョン研究センター 古井祐司特任助教

東京大学古井特任助教より、厚生労働省「予防・健康づくりインセンティブ推進事業」のプロジェクト報告が行われた。
本プロジェクトでは、保険者のデータヘルス計画運営を支援する「ヘルスケア・ポータルサイト」を開発しており、プロジェクト報告終了後、パネリストとして、このポータルサイトを実際に先行的に試用した保険者として、厚生労働省大臣官房会計課福利厚生室共済班長今井氏、SGホールディングスグループ健康保険組合保健事業課課長田浦氏の2名を迎え、古井特任助教をコーディネーターとしたパネルディスカッションが行われた。

まず、古井特任助教より「保険者を支援するポータルサイト~社会保障KPIを実現する視点から」と題し、データヘルス計画導入の背景やデータヘルス計画の運用面の特徴等について説明があった。

(以下要旨)

社会構造の変化に伴い、社会保障分野においても一歩踏み込み“攻める”取組みが求められるようになり、国民の健康寿命の延伸という施策実現のため、国民皆保険下での科学的アプローチとしてデータヘルス計画が導入された。
データヘルス計画の運営にあたっては、いわゆる健康無関心層への働きかけや集団特有の健康課題に応じた保健事業を設計することが重要である。
本プロジェクトで開発しているポータルサイトは、データヘルス計画の作成や評価・見直しを行うデータヘルスパス、人材の養成支援を行うデータヘルス大学、実務の実行性・継続性を担保するデータヘルスライブラリーの3つの機能で構成されている。
データヘルスパスでは、健康課題を明確化し優先順位を付け、対策の方向性のカテゴリー化を行うことで各保健事業がどの健康課題と連動しているのか、連動していないのかが可視化される。ポータルサイトを入力することで毎年の事業の評価・見直しが容易になり自然にPDCAサイクルが回る仕組みを目指している。また、入力結果を出力すればそのまま報告書として活用することも可能である。
他の保険者や自治体等の先駆的な取組みも参考できるよう、予防・健康づくりに関する事例やツール・素材も収集し参照できるようになっている。
これからデータヘルス計画を策定する保険者は、ポータルサイトを活用して集団の健康課題を整理することで目指す方向性がより明確化される。またこれまでの事業の“棚卸”により事業主の協力関係がよりスムースになったり、評価指標の設定により将来簡単に評価・見直しが可能となることも期待できる。具体的な取組みとして、厚生労働省共済組合の事例を参考にされたい。
また、既にデータヘルス計画を策定している保険者にとっては、1年目の評価・見直しの具体的な取り組みとして、SGホールディングスグループ健康保険組合の事例を参考にされたい。

パネルディスカッション「ポータルサイトを用いたデータヘルス計画の評価と見直し」

厚生労働省 今井紀博氏、SGホールディングスグループ健康保険組合 田浦聖子氏

厚生労働省の今井氏は、今回、厚生労働省共済組合のデータヘルス計画の策定を通じ、個々の保健事業の棚卸をすることで、これまでは事業の目標や成果の確認が曖昧だったことや事業主も様々な事業に取り組んでいることが明確になったと報告した。またレセプト・健診データの分析により健康分布図を作成してみると、非肥満だが高リスク者が多いという集団の特徴も明らかとなった。実際の作業を通じて、データ分析と同じくらい職員の特性や職場環境の実態把握が重要であることに気づいたという。
分析に基づき健康課題を整理し、保健事業の目的と目標、実施計画が設定された。具体的には、日常生活の場である職場を通じてリフレッシュや活動量のアップを図ること、パフォーマンスの高い仕事が出来るようエネルギーチャージを図ることを狙い、貢献ポイント(自分への貢献、社会への貢献、保健指導に関する貢献等)を活用した事業を検討するという。
古井特任助教からは、職場動線を生かした取組みは、多忙な省庁でも取り組みやすいもので、他の国家公務員共済組合や企業でも参考になる事例ではないか、と指摘された。

SGホールディングスグループ健康保険組合の田浦氏は、実際にデータヘルス計画を作成した際のエピソードとして、策定までに十分な時間がなく、とりあえず埋めたが計画の内容に自信がなかった等を挙げた。自健保で何が問題なのかをあぶりだすためのデータの切り口やアウトプット・アウトカム指標の評価のイメージがよくわからなかったという。今回、実際にポータルサイトを試用した実感としては、全体構造の把握が容易で、健康課題のカテゴリー化により自健保の課題が整理しやすい、ナビゲーションにある考え方や方向性を確認しながら進めることが出来る、年次ごとの事業の振り返りや評価がしやすい等の利点を指摘された。さらにポータルサイトに期待する機能として、ナビゲーションの一層の充実や、集団特性や健康課題が類似した保険者間で比較・参照できる機能等を挙げた。

最後に古井特任助教より、パネラーとして参加した2つの保険者の取組みは、自分の組合の加入者に素直に向き合った結果、次の一歩となる対策が見えてきたという事例であり、ポータルサイトを有効に活用してデータヘルス計画の全体構造が理解できると、計画も進めやすくなると総括された。
今回のシンポジウムの開催が、医療保険者のデータヘルス計画が一層推進される一助となれば幸いである。