文化を基軸とした融合型新産業創出研究ユニット
キックオフシンポジウム「日本の文化政策の新たな姿を探る」開催報告

【日時】
2017年6月19日(月)13:00-17:00(12:30開場)
【会場】
東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センターB2F 伊藤謝恩ホール 地図
【主催】
政策ビジョン研究センター(PARI)
【後援】
一般社団法人次世代芸術文化都市研究機構
【備考】
プログラム
【言語】
日本語

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シンポジウム概要

2017年6月19日、東京大学本郷キャンパス(伊藤謝恩ホール)にて「文化を基軸とした融合型新産業創出研究ユニット」のキックオフシンポジウムを開催した。本シンポジウムは、文化政策が変化しつつある現状に照らし、今後に向けてどのような展開があり得るのか、どのような課題があるのか。各界の最先端で活躍し、発言が注目を集める論客とともに探っていくことを目的としたものである。

開会挨拶(坂田一郎教授)
本センターは2008年に設立されてもうすぐ10年を迎えるという最も新しいセンターだが、特徴として分野、学問の領域にとらわれずに、各分野を融合して新しい学知を生み出して社会に貢献をするということが挙げられる。
「文化を基軸とした融合型新産業創出」という新しいユニットのキックオフとして、新しい文化政策をどういう風にとらえるかとうことに焦点を当てている。 一つは、現在の第四次産業革命の中で、文化、芸術の価値創出をどのようにしていくかという点。第四次産業革命と言われているが、その内容については未だ定まった見方があるわけではない。スマート社会、データ駆動型のイノベーション等々、様々な事が言われている中、文化、芸術の役割と、そういったものの成果として、文化、芸術の振興に役立つような道があるのではないか。どういう社会になるか、もしくはどういう産業構造が見えるかということであり、本学の総長が政府の会議で説明をし、現在、諮問会議の骨太方針ではソサエティ5.0というものに結随したコンセプトでもある。今は、パラダイムシフトの時期にあり、その結果として知恵が価値を生み、個が生かされるような社会の実現に、政策ビジョン研究センターを含めて東京大学としては取り組みたいと考えている。
新しい産業構造を創る上では、イノベーションの役割というのが欠かせないが、それを駆動する構造としては、科学的な知見、文化を含めた多様な知見、それらの成長、社会的なneedsやwill、経済社会システム、これらがとがった形で発達しているところ、その交点に新しいイノベーションが産まれ、新しい産業が成長していくと考えられる。
本日は、特に経済社会システムについて特に重点的に議論したい。 文化、芸術という面から見ると、経済社会システムが社会のニーズや課題に応え、その成果が文化、芸術の方にフィードバックされると考えられる。こういったようなフィードバックループが形成される事が不可欠である。そこでどういうシステムを作るかといった時に、公共の考え方を再整理し、価値の対価が文化や芸術へと還流する、還流のメカニズムを考えることが必要であり、官だけではなくて、より幅広い社会が文化、芸術を支えるような仕組みを作る。ビジネス領域との融合によって、文化、芸術の分野から価値創出がスムーズにされるような仕組みを作る。こういったような事が我々としては検討課題ではないか。特に、文化、芸術とその他の分野の融合について、文化、芸術の分野は、ビジネス領域とは一定の距離があるが、ビジネス領域と近い分野との融合を図ることによって、迅速かつスムーズな価値創出ができるのではないか。「融合」という事で、芸術、機械、新素材といったような分野との融合に取り組んでいる、ON-ARTの金丸賀也さんから代表例としてご紹介をしていただく。

ON-ART 代表取締役 金丸賀也氏
文化を基軸とした融合型新産業創出の一つの例として挙げられたON-ARTのプロジェクト「ディノアライブ」とは、まるで生きているような恐竜を目の前で体験するというコンテンツで、企画、デザイン、政策、運営までを一貫して行っているエデュテーメント、つまり教育とエンターテインメント、楽しみながら学ぶ、学びながら楽しむというものだと説明。リアルに歩き回る恐竜本体というのは、アメリカ、EUをはじめ、二足歩行で11か国、四足歩行で13か国の特許を取得しており、まず技術的な背景があり、カーボンファイバーや多くの新素材を使用して、徹底したリアリズムを追求している。恐竜の専門家の意見を反映し、福井県恐竜博物館の監修等も一部受けており、日本のものづくりとして経済産業省ものづくり日本大賞関東経済産業局管内優秀賞や、東京都ベンチャー技術大賞特別賞等を受賞した。また、金丸氏らはこれを単なるフィギュアの制作ではなくて、生きたリアリズムアートとしてとらえ、インパクトと新規性により、ここ数年、国内でライブショー等様々な形で開催し、数十か国からの問い合わせを受け、今世界から注目を集めているコンテンツの一つとなっている。日本発信の本格的なエディテーメントライブとして世界へのアウトバウンドおよび国内への強力なインバウンドコンテンツとして成長させていきたと述べた。また、日本のものづくりの心や、自然に対する感性を基軸とし、生き物、自然の素晴らしさを、言葉ではなく、目を見開くような驚きの体験、「センス・オブ・ワンダー」として感じていただくことをテーマとしていると続けた。そして、誰にでもわかりやすい 形で、アート、エンターテインメント、サイエンス、エデュケーションを融合し、「エデュテーメントライブ」として世界に挑戦し、世界の人々に長く愛されるコンテンツを目指していると結んだ。

【基調講演1 「観光立国・日本を目指すための文化政策」】小西美術工藝社取締役社長 デービッド・アトキンソン氏
2009年に小西美術工藝社に乞われて入社したアトキンソン氏は、「文化大国」と自称する日本の内情について、日本とイギリスの国宝重要文化財修復費用を比較した上で、 中身のない発言ではないかと自身の考えを意見した。氏によれば、文化財をどのように経済合理性のあるものに位置づけていくかと考えると、それは「観光戦略」になる。なぜ観光かといえば、今後日本の人口が減少していく中で生産性向上を図らねば経済の規模も縮小していく。文化財の側面から見れば、海外からの観光客にお金を足してもらえば、減少していく日本人の代わりに新しいマーケットを引っ張って来ることが可能、つまりこれが観光戦略ということになる。その後、世界における観光戦略の動向の説明がなされ、GDPでは第一にエネルギー関係、第二に化学製品、第三に観光、と観光の占めるウェイトの大きさが示された。実際に日本が保有する文化財に観光客を惹きつけるための施策としては二条城が例示され、入場料を上げてでも多面的情報を発信することで「楽しんでもらう」ことに重きを置くことの重要性を説いた。また、とかく立入禁止や撮影禁止等「禁止」が謳われる日本の神社仏閣では、観光予算の49%を占める「滞在費(=宿泊・飲食)」を有効活用させるために休憩スペースや飲食スペースの充実等をしていくことで収入を増やすことにつながるとした。 海外の無関心層によれば、日本のイメージは「Unwelcoming」であり、それを払拭するために、英語表記、翻訳等言葉の課題、クレジットカードやWi-Fi等利便性の課題が挙げられた。 こうした、いわば当たり前のことを当たり前に行うことが日本を観光立国、ひいては観光大国に導くものであり、日本文化を支えるためにできる方策として、観光戦略以外は考えられない、と結論した。

【基調講演2 「21世紀における日本文化の役割と政策提言」】国立新美術館館長 青木保氏
日本の行政の組織体制について、 文化庁は、文部科学省の外局との位置づけで職員が長官を含めて流動的であること、 ヨーロッパやアジア諸国では、文化省が設置されている国が多く、また、日本では文化庁が担っている 文化財についても文化省とは別に文化財省あるいは文化財庁が設置されているため、 日本もまずは、きちんと文化省を設置し、大臣を置くことの必要性について指摘があった。 次に、文化政策の課題として、道路の問題、文化施設の問題、日本文化の海外発信について、そして 文化特区の必要性について、下記のとおり示唆をいただいた。 日本の都市の道路づくりは東京に限らず、文化的視点や人が歩くという視点がほとんど考慮されていない感じを受けるため、 観光立国を目指すならば、同時に文化立国としても、観光客が来て歩いて楽しい街、道路とすること、文化遺産や文化財のみならず、 カフェや商店、文化施設、大学も観光のための文化的な体裁を整える必要があるとの指摘があった。 文化施設については、まずその存在を知られること、そして集客を高めることの意義について、 日本文化の海外発信については、日本の文化についてきちんと日本で整理し、ビジョンをしっかりと持って発信することの必要性が、 また、文化政策の目玉として、文化特区を認定、税金控除や世界中から人を集め様々なことをしていくこと等について発言があった。 更に、21世紀に入り、シンガポールを始めとした東アジアの国々が文化政策に力を入れ急速に発展している中で、 日本も自分たちの持っている力、これまで蓄積してきた文化的なもの、あるいは歴史や伝統や現代といったものについて、 自覚する必要があり、今後は、よりアジアとの関係が重要になってくるとの示唆をいただいた。

【パネルディスカッション 】
初めにパネリストの猪子寿之氏(チームラボ代表)と生駒芳子氏(ファッションジャーナリスト)からご自身の活動について簡単に説明をしていただいた後、それを受けて本学河島伸子客員教授より本日の議論のベースとなる「文化政策」について概論した。
モデレーターの小林教授からパネリストの青木氏、河島教授へ猪子氏・生駒氏のプレゼンについてどのように考えるか問うたところ、青木氏は「伝統を今に活かす生駒氏も素晴らしく、また革新的な技術で世界に打って出る挑戦が素晴らしい。やはり文化特区を設けて文化産業を具体的な形でやっていかなければならない」と発言があった。また、河島教授は「お二人の活動は、国の枠組みや文化政策というものを遥かに超えたところで展開されており、それはひとえにクオリティの高さが評価されているからだと思う」とした。 また、小林教授から猪子氏に対してどのようにこの活動が開花したか質問がなされると、猪子氏は「企業の請負をしている傍らアート作品を創ってきたが、たまたま2010年にKaiKaiKikiの村上隆氏の目に留まり、2011年台北でデビュー、2012年に大きな個展を開くことになった。それがきっかけとなり、シンガポール、ニューヨーク、そして日本のお台場へと発表の場が広がった」と回想した。 生駒氏からは伝統的な技術を発見して繋ぐような活動をしてきている立場から、行政レベル、民間レベルでの難しさについて西陣織、ジャポネズリの実例とともに説明がされ、「船を出す、プラットフォームを用意する」ということの大切さが挙げられた。 また、「クールジャパン」の文脈でいくと、いまや経産省だけでなく様々な省庁が関わってきている中、それぞれが5年も続かずに単発に終わってしまうようでは根付かせることが難しいとの指摘もあった。 補助金については中央省庁よりも地方自体からのほうが受けやすい経験を猪子氏が語ると、河島教授が中央省庁の縦割りの複雑さが事を難しくする一方、地方自治体の総合的な政策や街づくりが成功するパターンだとアートと上手くコラボレーションすることができるのではないかと解析した。 さらに猪子氏からは「言語で説得させるよりも視覚に訴えたほうが人の心を打つ、お仕着せは限界がある、また『新しい文化』というものの定義も難しく、戦略的に応援することには限界があり、むしろ内部差や寛容さと言ったもののほうが長期的にはよいのではないか」との重要な発言があった。ここで小林教授からは「アトキンソン氏はある意味で『言語化』を大事にしていたが、猪子氏と共通する部分は『押し付けない』ということであり、戦略的な応援に難しさがあることは課題ではあるが、しかしながらそれをできるのが政策だ」と答えた。 日本と世界の違いの話題となると、生駒氏は「目利きの存在とアートへの社会全体の興味関心」とし、猪子氏は「日本、外国、という枠ではなく『グローバル』な意識か『ローカル』かの違いだ」とした。双方の発言を受けて青木氏は「世界的に活躍している方々を見ると、国籍はあまり関係なく良いものは良いと評価される。だから文化政策に必要なこととしては、芸術の形成、創造、発信、という場を与えることだ。しかし予算の問題としては単年度で『育てる』という概念が欠けている、継続性をどのように文化政策に持ち込むかが課題だ」とした。
最後に小林教授から閉会の辞をかねて、以下のコメントがあった。
日本に在る文化をコアにした創造的な活動が社会の豊かさや未来を拓くことを認識し、文化芸術が思いの外広範に渡り、同時に様々な課題を内包していることも改めて痛感した。文化政策においてはこれらの分野に適した環境、事業設計のために行政内部のシステムや持続可能性について仕組みを作っていくということが研究対象になる。文化芸術振興基本法の一部を改正し、文化芸術基本法として改正、施行させることになった今、予算の面も含めて人材その他、どの様な事業の立案方法をしていけば良いのか、あるいは強化していけば良いのかが課題となる。文化、芸術が日本社会や日本の産業において大事だから予算を拡大していくというだけの発想は限界があるので、アトキンソン氏が掲げたように自ら稼いでいくという方策の他、新たな創出方法を当ユニットでは提言していきたいと考えている。イギリスにおける文化芸術振興に使われる宝くじの基金なども参考にしつつ、持続可能な文化芸術のためのクリエイティビティやイノベーションを興すための政策を考えていきたい。