政権政党と抵抗政党 − お馴染みの図式の復活

東京大学法学政治学研究科教授
藤原 帰一

2014/12/26

EPA=時事

総選挙は自民党の勝利に終わった。選挙前には300議席を超えるなどという観測も流れたから敗北として受け止める向きもあるだろうが、2012年の総選挙で大勝を収めた自公両党が2年後の選挙でも勢力を保持した意味は大きい。先月のこの欄で私は「前回選挙で大勝しただけに、いま選挙に踏み切っても自民党が議席を減らす公算が高い」と書いたが、結果として自民党はなんとか敗北を回避して、逃げ切ったと見るべきだろう。12年からの2年に加え、これから4年間、安倍政権が続く可能性も生まれた。

民主党は議席を伸ばしたとはいえ、09年の勝利には遠く及ばない結果に終わった。海江田代表が議席を失ったことも合わせて見れば、現在の民主党は自民党と政権を争う立場にないと言わざるをえない。維新の党は議席を減らし、次世代の党に至っては壊滅的な打撃である。12年選挙では自民・民主に代わる第三極に注目が集まったが、その2年後に行われた今回の総選挙では、維新の会、そこに合流した結いの党、あるいは次世代の党やすでに解党したみんなの党を含め、第三極は大きく後退した。野党勢力がまとまらないうちに国会を解散したのだから当たり前と言えば当たり前だが、民主党も維新の党も自民党と政権獲得を争う政党にはなっていない。

議席を伸ばしたのは共産党である。集団的自衛権から消費税増税に至るまで、今回選挙で安倍政権の政策に正面から挑んだだけに、批判票の受け皿になったとみてよいだろう。だが、共産党は政権獲得を争う存在ではない。共産党政権の実現する可能性が乏しいことを承知の上で、現在の政治に抗議する意思を示す票、プロテスト・ヴォートが共産党に集まったのである。

ここから見えるのは、自民党が圧倒的な議席を誇り、共産党が自民党と政府の権力行使を非難するという構図だ。政権政党と抵抗政党というお馴染みの図式が復活したと言ってよい。

かつて55年体制と呼ばれた自民党長期政権の時代、社会党と共産党の役割は自民党に代わって政権を獲得することではなく、政権に不満を抱える有権者を代弁する圧力団体としての役割を果たすことだった。政権獲得を目指して競合するという政党本来の役割から見れば倒錯しているが、過半数を得ることができない以上、ほかに方法はない。憲法改正の阻止は、選挙で過半数を得ることはできなくても議席の3分の1は獲得可能という、野党勢力の限られた力を反映した選択だった。

その後、自民党は1993年と2009年の2回にわたって政権を失うが、いずれの場合も非自民党政権は政権維持に失敗し、非自民勢力の離合集散のなかで自民党政権が復活する。それどころか、政権に復帰した後の自民党政権は以前よりも強い指導力を手にするかのようだった。93年政変以後の混乱が小泉政権を生み出したとすれば、09年の自民党下野と民主党政権の誕生は第2次安倍政権を生み出した。

なぜ自民党以外の政党は権力を保持できないのか。もっとも単純な理由は、政権の掌握によって自民党と違いのない勢力に変わるからだ。かつて抵抗政党の代表であった社会党は細川政権発足とともに政権党に加わり、現在に至る長期低落の引き金となった。09年に政権を掌握した民主党は、鳩山政権の混乱を経て菅、野田両政権の下で現実路線に転換したものの勢力凋落を食いとめることができず、維新の会に票を奪われる一因となった。

民主党は今回総選挙の争点をつくることはできなかったが、その理由は政権を担当した際の政策に求められる。消費税増税が民主党政権の下で合意された以上、増税を否定することはできないし、延期を批判すれば即時増税を訴えるほかはない。民主党政権が日米同盟を支持する以上、日米同盟とセットになった集団的自衛権を批判したところで説得力はない。原発については党内の議論が割れており、菅政権当時に経済産業相を務めた海江田代表が原発を争点に掲げることは難しい。政府の政策をどう批判してもブーメランのように民主党の首を絞めてしまうのである。

政権を担った民主党は低迷し、民主党に代わる位置を目指した維新の党は退いた。自民党と連立を組む公明党は選挙では成果を挙げながら、自民大勝のために影響力は後退する。残るのは自民党と共産党が対峙する図式であり、この図式自体が自民党の長期政権を保障する結果になる。

14年総選挙は、政党が政権を争う政治から、政権政党と抵抗政党の向かい合う政治への逆戻りを実現した。これから4年間、政府への白紙委任がどのような帰結をもたらすのかを私たちは知らされることになるだろう。

この文章は朝日新聞夕刊の『時事小言』に 2014年12月16日に掲載されたものです。