北朝鮮の核実験問題 — 膠着打開カギ握る中国

東京大学法学政治学研究科教授
藤原 帰一

2013/3/15

北朝鮮が3回目の核実験を行った。この事態を前にして、どのように対処するべきだろうか。

経緯を振り返ってみよう。第一のサイクルは、1993年から2003年である。93年に北朝鮮が核不拡散条約(NPT)から離脱する意思を表明してミサイル実験に踏み切ると、西側諸国と北朝鮮の関係は一気に緊張し、94年には軍事介入の直前に至った。カーター元大統領訪朝を転機として米朝枠組み合意が実現し、96年以後は食糧援助も提供されるが、北朝鮮政府の政策転換を招くことはなく、03年に正式にNPTから離脱するとともに食糧援助も終わりに向かった。

NPT離脱を受けて発足した6者協議が第二のサイクルであるが、協議の断続したこの時期、北朝鮮はミサイル実験に加えて06年には核実験にも踏みきった。6者協議が中断した後には核実験、ミサイル実験、さらに10年には韓国の大延坪島が攻撃され、今回の核実験に至る。

西側諸国は軍事的威嚇や経済制裁と経済援助や外交努力という北風と太陽の間を揺れ動き、どちらも成果を収めることがなかった。金正日(キムジョンイル)の死去によって新たな指導者となった金正恩(ジョンウン)のもとでより柔軟な外交政策に転換するという期待も、2回のミサイル実験と今回の核実験によって裏切られた。

何が問題なのだろうか。まず、北朝鮮の政治体制には正統性がない。核開発や日本国民の拉致もさることながら、北朝鮮国民の人権を、そして生命を奪ってきたからである。ステファン・ハガードらの推定によれば、95年から99年にかけて飢餓のために死亡した北朝鮮国民は60万から100万人に及んでいる。国民を餓死に追いやりながら体制の保全ばかりに力を注ぐ政府が続いて良いはずはない。

では、軍事的圧力を加えれば良いのか。問題は、抑止だけでは北朝鮮の行動を変えることができないという点にある。いうまでもなく北朝鮮の行動を抑える中核はアメリカの核抑止力であるが、93年以後の展開を見ればそれだけでは北朝鮮の行動を変えることができないのは明らかだろう。経済制裁についても中国を除いた諸国は制裁の規模を拡大してきたが、効果を上げていない。

そして、先制攻撃によって北朝鮮の体制を倒すことも賢明とはいえない。北朝鮮の軍事拠点は山中や地中に設けられていると考えられ、核兵器を用いない限りくまなく破壊することは難しいからだ。核兵器によって先制攻撃を加えたならば韓国の反発は必至であり、核を用いない攻撃であっても体制打倒を目指すような軍事行動に対しては中国・ロシアが反発することは避けられない。先制攻撃による体制打倒、レジーム・チェンジを目指す戦略は、人道的に疑問であるばかりか、北朝鮮に向かい合う各国の協調を壊し、国際紛争をかえって拡大する危険もある。外交交渉に期待はできないが、軍事行動の合理性も乏しい。そこに北朝鮮問題の難しさがある。

北風も太陽も役に立たないとき、状況の膠着は避けられない。今回の核実験について国連安保理は非難決議を行うことが予想されるが、それによって北朝鮮の政策が直ちに変わることは期待できないだろう。

では、膠着状態を甘受するほかはないのか。鍵を握るのは中国の対応である。これまで中国にとって北朝鮮は、中国国境まで米軍が押し寄せることを防ぐ、国防のためのコマのようなものだった。しかし、北朝鮮との関係を保つ限り中国は西側諸国との緊張が避けられない。10年に大延坪島を北朝鮮が攻撃した際に中国は北朝鮮批判を手控えたが、その結果として、大延坪島攻撃の直後、中国本土に近い黄海で米韓両国が合同軍事演習を行っても、座視するほかはなかった。北朝鮮を抑制しない限り中国も孤立することが示されたのである。

今回の核実験に対し、すでに海上の安全通航を巡って日本ばかりかASEAN(東南アジア諸国連合)諸国やアメリカとも緊張をかかえる中国が北朝鮮を支援すれば、西側諸国の結束を強め、北朝鮮ばかりか中国も孤立を深めることになる。西側諸国による経済制裁が既に最大規模に達した現在、軍事行動以外に北朝鮮を抑制する手段を持つ政府は中国しか存在しない。実現がきわめて難しい課題ではあるが、北朝鮮政策において中国を西側諸国と共通した政策に導くほかに、現在の膠着を打開する方法はない。

北風も太陽も役に立たないとき、状況を変えることは難しい。だが膠着から脱却しようとして先制攻撃や宥和的な妥協に走れば、状況はさらに悪化してしまう。必要なのは北朝鮮に向かい合う諸国が結束を強化することだろう。

この記事は朝日新聞夕刊の『時事小言』
2013年2月19日に掲載されたものを元にしています。