レジリエント・ガバナンス研究会最終報告書

東京大学政策ビジョン研究センター

産業競争力懇談会(COCN)

2014/3/27

AFP=時事

この最終報告書は2013年度に、東京大学政策ビジョン研究センターと産業競争力懇談会(COCN)が共同で発足させた「レジリエント・ガバナンス研究会」の成果として取りまとめたものです。本ページではエクゼクティブサマリー部分を掲載しています。全文は下記PDFをご覧ください。

レジリエント・ガバナンス研究会 最終報告書 2014/3/27

エグゼクティブサマリー

序.「 レジリエンス」強化に向けた我が国と世界の動向

1. グローバル・アジェンダとしてのレジリエンス

世界経済フォーラム、OECDでのリスク関連調査や先進各国でのレジリエンスに関する政策はグローバルでの相互依存性などを意識した政策議論である。レジリエンスに代表される危機管理能力が企業や経済の競争力、ひいては国家競争力と認識されつつある。一方、我が国では自然災害を中心とした防災・減災対策として国土強靭化対策の第一歩が踏み出されたところである。

2. 国家としてのリスク・アセスメントの実施

国家のレジリエンス強化に向けた基本法(国土強靱化基本法)が整備され、脆弱性評価も進み始めた。しかし、先進各国で実施されている国家の危機管理施策にはなお学ぶべき点が多い。リスクの対象や評価手法、そのマネジメント手法と社会実装までの手続きと危機管理の国家戦略について、先進各国と比べ、日本には未だ改善の余地がある。

3. リスク認識が大きく異なる日本の官と民

日本政策投資銀行(DBJ)が実施した日本初の総合的なリスク・アセスメント調査で、様々なリスクに対する官民間の認識の差が明らかになった。国家運営に際し、総合俯瞰的な観点から政策の優先順位付け、リスク管理の責任分担、官民間のリスク・コミュニケーションを促進させるためにも、先進各国のようにオールハザードを対象とした国家のリスク・アセスメントを実施するべきである。

Ⅰ. レジリエント・ガバナンスの考え方

1. レジリエント・ガバナンス

大規模災害等の非常事態に直面した際、限られたリソース(ヒト、モノ、情報、時間、空間)をもとに、政府・地方自治体・民間企業・NPO・市民社会が、その協働メカニズムによる事前準備・応急措置を進め、社会システムを支える重要インフラシステムの「被害の最小化」と「早期の機能回復」の実現を図ることである。

2. 非常事態への「事前準備フェーズ」と「事後対応フェーズ」

  1. 「事前準備フェーズ」で重視すべきこと
  2. オール・ハザード・アプローチ、重要インフラシステムの複雑系システムと相互依存性の理解、ハードに偏らないソフト面の重視、時間要素の導入、地域的エリア間の依存性把握と対応

  3. 「事後対応フェーズ」で重視すべきこと
  4. 日本版インシデント・マネジメント・システム、非常時指揮システム、状況認識を支える情報システム、関係省庁をまとめる司令塔機能

3. ガバナンス設計の検討プロセス

  • ① 重要インフラシステムの構造の把握、② 重要インフラ間の依存関係、③ 脆弱地点の解明、④ 脆弱性軽減策の開発、⑤ レジリエント・ガバナンスの設計 ⑥ リスク・マネジメント計画の策定と実行のシミュレーションが必要。

Ⅱ. 重要インフラ・ガバナンスの具体例<エネルギー需給システム>

1. エネルギー需給システムの特質

  1. 構造
  2. 被災直後から必要になる諸般の活動を支え、国民生活・経済活動を正常化させるためには、エネルギー需給システムの早期正常化が必須であり、供給者側の対策のみならず、需要者側の平時からの自衛的備えが必要。

  3. エネルギー相互の依存関係
  4. 災害時に系統電力が停電した際、分散型電源の稼動による復旧までの電力の供給には、燃料の十分な確保が必要になる。その燃料が欠如すれば、石油やガスを供給するインフラが動かず、安定供給は困難となる。

  5. 「自由化・市場化」と「レジリエンス」の相克
  6. 自由化による競争的なエネルギー供給環境の構築という視点に加えて、「レジリエンスの高いエネルギー供給構造」を作るという視点を重視し、バランスのとれた制度改革を進める必要がある。

2. 石油セクターのガバナンス設計

  1. 需要家による自衛
  2. 病院・通信・金融等の重要インフラシステムの非常用電源等を動かす燃料不足や、孤立集落・世帯の発生を想定し、道路等が毀損して石油輸送が困難な初期局面(発災後72時間程度)に備え、需要家による自衛的な石油製品の備蓄を強化すべき。

  3. 供給・流通対策
  4. 製油所桟橋・配管等損壊による入出荷機能喪失を防ぐべく石油コンビナートの液状化対策を進めるべき。輸送手段やSSの被災を想定し、タンクローリーの予備力やドラム缶や仮設SSユニットによる給油能力強化を推進すべき。

    石油精製元売り各社は、物流会社、販売子会社、特約販売店・販売店を包含する「系列全体のBCP」を早期に整備すべきである。また、関係省庁と石油業界による燃料供給支援の「協議体」を構築し、製油所周辺の道路・航路の優先的啓開の実現、被災・復旧情報の一元的かつリアルタイム共有システムの構築、緊急物流円滑化に必要な規制緩和特例を事前準備すべき。

3. 天然ガスセクターのガバナンス設計

  1. 地政学リスク対策
  2. 長期契約における調達ポートフォリオの多様化、国産天然ガス開発を推進するとともに、事業者間の天然ガス融通を容易にすべく、LNG売買契約における仕向地条項見直しを進めるべき。

  3. 大規模災害等によるガス供給不全リスクへの対策
  4. 国は国費投入を前提とした天然ガスパイプライン整備構想を策定し、建設コスト低減等に資する規制緩和等により整備を促進するとともに、大規模貯蔵設備としての枯渇ガス田活用に向けた法的ルール整備等を具体的に検討すべき。

  5. 大規模災害等による電力需給逼迫リスク対策
  6. 重要インフラ施設による、天然ガスパイプラインの整備やコージェネレーション等の自家用発電設備の普及・拡大を税財政措置により推進すべき。

4. 電力セクターのガバナンス設計

  1. 「系統電力」
  2. 地域間電力連系・危機時の融通余力の強化に向け、必要なインフラ(東西周波数変換や北本連系等)の更なる増強や需給調整能力拡大に向けたスマート・グリッド技術開発等を進めるべきである。電力設備の応急復旧に必要な資機材・燃料・人材等の迅速な確保、道路等インフラの被災状況・通行規制・復旧状況等の情報の迅速な共有が必要。

  3. 「分散型電力」
  4. 危機時に、系統から独立して確実に稼動させるためには、十分な石油備蓄の保有や、中圧ガス配管への接続、蓄電池との併用等の安定化運転技術の導入や、水冷式エンジン型発電機への水供給確保が必要である。また、危機時の稼動の信頼性を高めるには、「非常用発電」でなく「常用」で活用できるコージェネレーションが有効。

Ⅲ. 重要インフラ・ガバナンスの具体例<公衆衛生・保健医療システム>

1. 公衆衛生・保健医療システムの特質

  1. 公衆衛生・保健医療システムはもっとも複雑かつ重要なインフラであり、災害発生時には需要が急増すると同時に、供給力は低下する可能性が高い。
  2. 急増した医療ニーズ(サージ)に対して、人命・負傷者救済の観点から事前に基準を明確化・共有して資源の効率的配分を準備することが重要となる。

2. 公衆衛生・保健医療システムの脆弱性を生む要因

  1. 非常時には膨大かつ多様なニーズに対して迅速な医療提供が困難になり、システムの脆弱性を生む。
  2. 医療提供機関は地理的に偏在し、通信、エネルギー、物流等他のシステムに依存しており、人員、必要機器等を適切に調達することは容易ではない。
  3. 医療の分化した専門区分や官民の運営形態の差、各機関の財政能力も制約となる。

3. 公衆衛生・保健医療システムの脆弱性の克服策

脆弱性の克服には、この複雑なシステムの特質をよく見極め、優先順位等行動原則を確立し共有するとともに、複線的バックアップの体制を構築することが重要であり、以下の施策が有効である。

  1. 稀少資源の効率的な使用
  2. 潜在的な医療資源の把握(発掘)と非常時における動員体制の構築(救急救命士等の活用)
  3. 依存関係にあるシステムとの連携
  4. 医療ニーズと利用可能な資源の把握のための情報システムの構築とそれを有効にするためのマイナンバー等の活用
  5. 冗長性の確保と平時における対応
  6. 効果的なマネジメント・システムの構築:チーフ・リスクマネジメント・オフィサー等の職務の設置とリスク・マネジメント計画の策定
  7. 災害発生時の危機管理を効果的、効率的にするための規制および規制緩和、支援体制の法的制度整備

4. レジリエンス強化のための政策パッケージ

  1. 医療機関レジリエンス確保パッケージ
  2. ① 建物自体の強靭化
    ② エネルギー確保などのインフラ関連
    ③ 給水の備蓄と代替手段の確保周辺施設、敷地内設備の脆弱性検討及び耐震性向上
    ④ 医療ガス設備の耐震措置及び非常用医療ガス設備・スペースの整備
    ⑤ 医療機関内のソフトパワーとしての強靭化

  3. 医薬品等提供レジリエンス確保パッケージ
  4. ① 医薬品・医療機器メーカーへのレジリエンス拡充
    ② 医薬品卸のレジリエンス拡充
    ③ 監督官庁、自治体等のレジリエンス拡充

Ⅳ. ケーススタディ<首都直下地震>

1. 東京都市圏の特徴

  1. 「国家中枢・経済中枢機能」としての東京
  2. 十分な備えがない状態で首都直下地震が発災した場合、国家の統治機能と日本の経済活動に大打撃を与え、国際ビジネス都市としてのTOKYOの信頼感を完全に失墜させる恐れがある。

  3. 「地方」としての東京
  4. 人口3700万人を抱える「世界最大の地方」東京は、圧倒的な人間の密度と量により、必要な資源の量的確保や帰宅難民問題、要援護者対策等にみられるように、リスクを増幅させる。

  5. 東京都市圏におけるレジリエント・ガバナンスの考え方
  6. 「首都復興プロセス」のスピードを最速化させるためには、「国家中枢機能」と「経済中枢機能」へのダメージを最小化させ、かつ、いち早く回復させうる、「レジリエント・ガバナンス」の確立が求められる。

2. 予想される地震によるハザード

  1. 地震やそれに伴う火災、液状化等の現象がもたらす「物理的ハザード」
  2. 世界最大の人口を有する東京都市圏ゆえの、帰宅・出勤困難者問題、要援護者保護対策等の「人の動きが増幅させるハザード」

3. 進めるべき対策

  1. 兵站(ロジスティクス)インフラの強化と自立型エリアマネジメント
  2. ① 兵站(ロジスティクス)インフラの強化

    ・災害発生時には、海という「壊れないインフラ」を活用すべく耐震岸壁の強化を更に進め、多数の海上自衛隊の大型護衛艦等の接岸を可能にし、救援活動や帰宅困難者の他地域への移送等の重要な拠点とすべき。

    ・港湾施設から都心部に通ずる道路について、耐震化、液状化防止対策を実施することも併せて重要。

    ② 自立型エリアマネジメント

    分散発電や地下水等による電力、水等の自給自足による自立型エリアマネジメントの体制を構築すべき。

  3. エネルギー供給網の早期復旧
  4. ① 設備の耐性強化、早期復旧に必要な耐性の準備

    ・電力設備の耐震強化、火災や復旧阻害要因の除去(感震プレーカ、電線地中化等)、製油所の液状化・側方流動対策を強化。

    ・復旧を迅速に行うために引き続き資機材や要員の確保強化に努め、災害時には行政と協調の取れた復旧活動ができるよう調整・訓練を継続。

    ・需要側への非常用分散電源の設置や需給調整契約メニューの拡充、災害拠点病院等の重要インフラの自家発電機へのガス供給のため、中圧ガス配管、需要コントロール等のスマート・グリッド技術の導入を検討

    ② 供給インフラの冗長性(リダンダンシー)強化

    東西周波数変換等によるバックアップ能力増強など供給インフラの冗長性の強化を、国として計画し推進する。

    国として広域ガスパイプライン網整備計画を早期に策定し、東京湾内に集中した供給ソースの分散化・複線化を図る。

    ③ 輸送網確保:道路・港湾の早期啓開、長大・水底トンネルの通行許可

    製油所・油槽所に通ずる道路や航路の早期啓開を実施し、東京都市圏内外を結ぶ長大トンネルのタンクローリー通行を可能にする。

    ④ 自衛隊との輸送協力、地域社会でのドラム缶給油体制の準備

    製油所からのドラム缶による出荷や輸送困難地域への搬送等について自衛隊との協力関係を平時から強める。また、被災現地における給油活動を、地元消防や地域社会が主導して行う体制を整備すべき。

  5. 医療サービス供給体制の早期復旧
  6. ① 病院の耐震対策等

    災害拠点病院自体の機能維持だけでなく、病院に向けて被災者を搬送したり、搬出したり、医師や医薬品・医療機器等を運び込む兵站機能を維持すべく、その周辺地域が安全に保たれていることが必要である。

    ② 医薬品の供給リスクと対策

    発災後3日間の超急性期においては、医薬品卸も被災して機能しないことが想定される中、都道府県にある医大附属病院(或いは災害拠点病院)の薬局内に県(または国)の薬品保管庫を作ることを提案する。

Ⅴ. レジリエント・ガバナンスに向けた提言

1. 抵抗力・回復力ある「社会システム」のデザイン

  1. 「様々な主体」と「重要インフラシステム」が交差し合って構成される社会システムを、リスク・マネジメントに繋がる検討プロセスのシミュレーションを行い、併せて主体ごとの役割と責任を再定義する。
  2. 中央政府各機関、地方自治体、企業などの主体に、チーフ・リスク・マネージメント・オフィサーを置く。

2. 政府の危機管理強化

  1. 政府中枢の司令塔機能を発揮するコアと重要インフラシステムごとに定められるリードエージェンシーが協力する構成が望ましく、政府において司令塔機能のあり方の検討を期待。内閣国家安全保障局と双璧をなすコアを形成するのも一案。
  2. 重要インフラシステム毎に、リードエージェンシーとサポートエージェンシーが組成する関係省庁クラスターを形成する。

3. 地域の危機管理強化

  1. 自治体BCPの策定と自治体間の広域的な連携
  2. 地域において重要インフラシステムに関するプラットフォーム(自治体や事業者など)を構築する。
  3. 多様な主体が連携し、地域の安全問題に取り組む必要が高まっており、ソーシャル・キャピタル(SC)の醸成に取り組む。

4. 企業の危機管理強化

  1. 企業経営における危機管理面を重視し、BCPを強化する。
  2. BCP からBCM、個社からサプライチェーン、産業のレジリエンス向上へと企業は自助努力を推進させる必要。一方評価・認証・モニタリングの仕組みづくり、規制等の緩和・撤廃、レジリエンス投資に係る税制、財政政策が必要である。

5. 組織を超えた情報共有の促進

非常時における情報共有を促進するには、国土の情報を再調査し、デジタルデータ化、地理空間情報をはじめとする重要情報の整理・統合、限られた範囲での官民情報共有の推進など進める

6. レジリエンス強化に向けた科学技術振興と人材育成

  1. 国の科学技術政策のコアにレジリエンスに係るテーマが位置づけられつつある中、引き続き充実強化に努める。
  2. 重要インフラシステム固有のレジリエンス強化に資する科学技術や重要インフラシステムの相互依存関係の研究などレジリエント・ガバナンス強化に資する研究を重視する。

7. 東京都市圏のレジリエンス強化

  1. 首都直下地震への備えとともに、2020年に東京オリンピックを控え、東京都市圏のレジリエンス強化は、試金石となる。
  2. 東京都市圏リスクマネージメントプランの策定、重要インフラシステムについて国と東京都市圏(1都3県)自治体との協議会設置、合同訓練などを検討する。