第8回 科学技術ガバナンス研究会 連続ヒアリング企画

日時:5月25日(火)10:00〜11:30

場所:東京大学公共政策大学院 会議室

講師:豊島 聰 氏(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 シニアアドバイザー)

参加者:13名

講師による主要な問題提起                          プレゼンデータ

◆ 日本の医薬品の承認申請と承認審査における課題は、ドラッグラグである。ドラッグラグの発生は、企業が日本で開発にはいることが遅い、治験あるいは審査の段階で、時間がかかるなどが主な原因である。日本の場合、企業が開発にはいるまでに時間を要することが多い。

◆ 1997年に新GCPの施行後、治験計画届出数が激減したが、2004年に医薬品医療機器総合機構(PMDA)発足と同時期に、厚生労働省は治験活性化計画を実施している。この計画は当初3年計画であったが、1年延長し、現在は内容を拡充させて5年計画を実施している。

◆ 新医薬品が医療現場で使用できるようになるためには、薬事法に基づいた有効性および安全性の評価が必要となる。開発企業による評価・検証試験に基づく申請資料を評価することを通して、PMDAは有効性および安全性を評価する。

◆ 承認審査はレギュラトリーサイエンスに基づく。レギュラトリーサイエンスとは、広義には、科学と人間社会の調和を目指す比較的新しい概念の学問であり、基礎および応用化学の成果を社会にとって、最も望ましい姿に調整することを目的とする科学である。

◆ 医薬品には必ずリスクが存在するが、リスクとベネフィットのバランスで評価される。バランスを評価する際には、社会的要請も考慮される。例えば、抗がん剤のような社会的要請の多い薬の場合、リスクが高くともベネフィットがそれを上回れば承認されることがある。また、患者数が少ないが重篤な疾患を対象とする薬(オーファンドラッグ)の場合、十分な臨床試験を行わずに承認される事例も散見される。この場合には、 市販後の調査を十分に行うことが、承認の条件となる。

◆ PMDAでは2007年より2012年にかけて、相談・審査業務改善のための新プランを実施中である。医薬品上市までの期間を2.5年短縮し、米国並の審査スピードにすることを目標にかかげ、新薬担当審査官を増員した(新薬担当審査官は2004年に154人だったものが、2010年には389人となっている。また、PMDAの総職員数も、同期間に256人から605人に増員された)。その結果、新プラン施行3年目の2009年には新医薬品承認数が2割増加した。

◆ 開発期間の短縮と無駄な試験を行わないようにするために、企業向けの治験相談も充実させている。中でも事前評価相談は審査業務の実質的な前倒しとして2009年から試行され、段階的に拡大している。これは困難な業務なので、ベテランの審査官を投入する必要がある。先端技術として注目されている、ファーマコゲノミクス・バイオマーカーに関する相談にも対応している。

◆ 世界同時開発を目指した国際共同治験を推進するため、2007年後期に厚労省が通知(「国際共同治験に関する基本的考え方」)を出す等したところ、2009年後期には、総治験届のうち国際共同治験を含むものが25%を占めるまでになった。対象疾患は、2008年までは抗がん剤が主であったが、以降は多領域に拡大し国際共同治験がより一般化してきている。また、治験の相(フェーズ)については、以前は8割が3相であったが、最近は2相等が増加中である。

◆ PMDAでは、国際業務を強化するため2009年に国際部を設立した。主な業務は、諸外国との連携強化、およびICH、GHTF、HBD(日米間)などにおけるガイドライン作成等の国際調和活動である。これにより、有用な医薬品の国際的な開発促進を目指している。

◆ 厚生労働省に設置された「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」は、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬を申請するよう、民間企業に促している。この検討会には、PMDAにおける審査経験のある医師が多数関与している。対象として比較的抗ガン剤が多い。

◆ 近年、医薬品の承認審査では、個々の技術や研究(者)をつなぐトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究、TRとも)が注目されている。TRの課題は、基礎研究、臨床研究、一般医療への応用・新産業創出までの各段階に存在する魔の川(基礎研究と臨床研究の間)、死の谷(臨床研究と応用の間)を克服することである。しかし、費用対効果や産業化の視点や薬事規制の知識が乏しく、医薬品の上市という出口まで到達しないことも多い。各段階を理解し適切な道筋を示せる「目利き」、「船頭」が必要とされている。

◆ 医薬品の実用化のためには、臨床研究の後、GCPに沿った治験をしなければならない。現在、治験と臨床研究としての臨床試験の一本化について議論がなされているが、一本化の利点はデータ採取などの二度手間を省くことにより開発がより早まることである。しかし、治験費用の負担を臨床研究者が賄いきれない、最先端研究では治験費用を回収できない(米国は国による治験費用補助あり)、初回治験届出調査(30日間。治験被験者の保護が主な目的)の実施主体としての業務量の増大にPMDAが対応できない、といった課題がある。ただし、現行制度の下でも、高度医療評価制度の下で行われた臨床試験のデータは治験でも一部利用可能である。一本化せず選択肢のあることが望ましいとの意見もある。

◆ 有用な医薬品のシーズ(船荷)を最短で承認申請(目的地)に導く(到達させる)には、開発全体を統括するリーダー(船頭)と非臨床・臨床試験経験を有する支援組織(船)が求められている。

討議における主要な論点

治験に関して、GCPに国ごとに若干の違いがあるため、国際共同治験ではしばしばその点が問題となる。(例:日本は書類が多いとの指摘があったが最近は減らしてきている。)

治験と臨床研究が一本化された場合、企業からの申請はGCPをクリアしているので短期間で確認ができるが、臨床研究はGCPの基準をクリアしていないことが多く、時間も手間もかかる。また臨床研究は実施数も多いため、一本化された場合に申請数が激増する。すなわち、被験者保護のための初回治験届調査(30日調査)に非常に時間がかかることになる。PMDAとして、上記のすべての案件に円滑に対応可能な体制を構築するには、審査官をさらに増員するとともに十分なトレーニングをしなければならない。

臨床試験を上市までつなげていく支援組織・人材が必要である。当面の人材としてはすべての段階を俯瞰的に見ている審査経験者が適任であるが、企業の研究開発者も必要である。4、5人のチーム体制があれば、一定の業務をこなすことができるであろう。

◆ 国際共同治験の推進等のため、国際連携・調和の促進を目指し、欧米の機関(FDA、EMA)に審査官レベル〜部長クラスの人材を派遣し人事交流を行っている。各機関で相談を同時に進める等の構想もある(欧州と米国間ではすでに先行している)。現実には、三極間でのTV会議は、時差、システムの違い等があるので、対応は困難が伴う。日本でも、まずは2国間の相談から始めることになるのではないか。また、企業が、三極へ同時に相談し、情報を共有することは可能ではないか。

◆ 国際共同治験をめぐる情勢は変化している。米国オバマ政権下で皆保険制度導入されれば、医薬品価格の抑制が予想される。一方、日本の承認審査スピードが上がったことにより、日本の市場価値が相対的に高まっている。なお、いま最も注目されている市場は、人口の多い中国である。

◆ 医薬品の承認審査は透明性が高いことが重要である。TAのように多様な立場の意見を反映させ合意形成を促す枠組みが求められている。

◆ 医薬品審査のスピードアップばかり注目されているが、審査の質を落としてはいけない。米国がここ数年、安全性に留意し、審査を慎重に行うようになってきており、審査の質の確保がさらに認識・注目されてきている。

◆ 医薬品の承認審査過程において、社会的判断を入れることは必要である。社会的判断を可視化する上では、患者団体をどのように参加させるのかというのも重要な論点である。

◆ 米国FDAは、審査官個人に責任を負わせない。訴訟等もFDAが組織として対応している。FDAには弁護士が100名以上いることも日本のPMDAとは大きく異なる点である。FDAの弁護士は訴訟対策のほか、国際ガイドラインの策定における法的なチェックにも関与している。

◆ 日本においても、審査に関する責任が訴訟において問われたことはない。しかし、審査報告書に審査官名を入れることには抵抗があり、入れないことになった。また、PMDAは市販後調査を担当しているため、市販後に問題があった場合に何故止めなかったのかといった、責任追及をされる可能性はある。

◆ 医薬品による副作用被害を考慮すると、医薬品の現場での使い方には問題がある場合もある。医薬品は本来、専門医が患者の症状を観察しながら、徐々に使うべきものである。